フランスと太平洋

  • 2017.01.27 Friday
  • 08:38

 

中国を警戒し始めた「太平洋国家フランス」の安全保障事情 「対中武器輸出」の蜜を棄て包囲網に加わる?
 産経ニュ−ス 2017.1.16  [野口裕之の軍事情勢]
 日本、フランス両政府は日本時間の1月7日未明、パリで開かれた2+2(外務・防衛閣僚協議)で、南シナ海で軍事膨張をひた走る中国を「念頭」に、緊張を高める一方的な行動への強い反対を表明し、自制を求めたが、わが国のみならず、フランス政府の「念頭」に浮かぶ中国の不気味な影は今後ますます膨らむだろう。
 昨夏にも仏国防相がEU(欧州連合)加盟国に、「航行の自由」を確保すべく、南シナ海に海軍艦艇を定期的に派遣するよう呼び掛けたが、背景にはフランスの太平洋権益が中国に脅かされ始めた危機感も横たわる。
 フランスは1100万平方キロに達する世界第2位のEEZ(排他的経済水域)を有する「海洋国家」だが、海外領土が広大なEEZを稼いでいる。太平洋にも4カ所あり、50万人ものフランス国民が暮らす。一部には軍事基地が置かれる。
 ところが、中国は海洋鉱物・漁業資源を求め、仏海外領土周辺の南太平洋島嶼国家への札束外交攻勢だけでなく、「独立後」をにらみ太平洋に点在する仏海外領土へも手を突っ込む。中国の影がヒタヒタと押し寄せる現実に、フランス軍は米軍や豪州軍、ニュージーランド軍に加え、自衛隊との軍事演練を加速・活発化させている。 
 ただし、フランスとの付き合い方には、それなりの作法、いや「不作法」が必要だ。中国人民解放軍が民間人を虐殺した《天安門事件/1989年》後、EUは対中武器禁輸を建前としてきたが、禁輸対象は各国に委ねられた。フランスは殺傷兵器に限定し、ステルス構造やレーダー、機関などを何食わぬ顔で中国に販売している。
 一方で、台湾に戦闘機やフリゲートを売れる国柄である。アジア・太平洋に張り巡らした盗聴網「フランス版エシュロン」を駆使して、損得勘定をはじいているに違いない。
「南国の楽園」の別の顔
 豪州の東1200キロに位置し、美しいサンゴ礁が世界遺産に登録される世界有数のリゾート地=ニューカレドニア。だが、「南国の楽園」はもう一つ別の顔を持つ。
 インマルサット(国際移動通信衛星ネットワーク)やインテルサット(商業衛星通信システム)などを傍受する世界的通信監視網のアジア太平洋地域における拠点なのだ。外交・安全保障上の盗聴は言うに及ばず、フランスの国策である兵器取引の成約を狙う産業諜報も主要任務だといわれる。《フレンシュロン》と呼ばれ、米国や英国、豪州、ニュージーランド、カナダで構成する同種の監視網《エシュロン》に比べ、性能・規模は劣るが、決して侮れぬ存在に進化しつつある。
 フレンシュロンの他、ニューカレドニアには陸・海・空軍や国家憲兵隊などで編成する《ニューカレドニア駐屯フランス軍=FANC》が陣取る。フリゲートや戦車揚陸艦、哨戒艇や巡視艇、固定翼輸送機やヘリコプターなどを配備する。兵力は2950名(2008年仏国防白書)。
 また、フランス領ポリネシアには《フランス領ポリネシア駐屯フランス軍=FAPF》が、FANCと同種の編成・装備で各諸島に散開している。兵力は2400名(08年仏国防白書)。
 フランスが国軍を本土よりはるか彼方の、例えば18000キロ以上離れた仏領ポリネシアに常駐させる理由は当然、国益に向けた戦略ゆえだが、戦略のベクトルは時代によって変化してきた。まず、大前提として仏海軍には、米海軍のように長期・常続的に遠方の戦略海域で自己完結しながら留まる能力が乏しい。
その上で、時計の針を1963年まで戻す。フランスは同年、米英が太平洋での核実験を終えたのを横目に、《太平洋実験センター=CEP》を設置し、1966年に核実験を開始した。CEPは仏領ポリネシア内のムルロア環礁とファンガタウファ環礁の核実験場を管理する。周辺の独立国や各列強の海外領土、環境保護団体は激しく反発。FAPFの重要任務はCEPの防衛だった。
 同時に、核実験に対する東西両陣営による情報収集や先住民による独立運動、経済・雇用への不満が元で起きる暴動の鎮圧…にFANCもFAPFも不可欠だった。
 あくまで強気を貫いたフランスも、包括的核実験禁止条約(CTBT)採択を受諾し、1996年に核実験を完了すると、前後して戦略上のベクトルを修正する。
 南太平洋の島嶼国家や列強の海外領土は頻繁に大きな自然災害を受けるが、経済事情もあり対処機能が弱い。といって、豪州やニュージーランドといった地域大国の国軍だけでは、広域かつ島々が点在する南太平洋をカバーしきれない。FANCやFAPF=フランスの南太平洋駐留部隊は次第に、豪州やニュージーランド、続いて次々に独立し増えていく島嶼国家とともに災害対処はじめ密漁監視、海難救助などで共同演習や実活動の輪を広げていった。脆弱な軍・警察力しか持たぬ島嶼国家に代わり、豪州やニュージーランドと協力した治安維持活動も始まった。孤立に近かった自主外交の転換だった。もはや、フランスの南太平洋駐留部隊の支援なしに、各国軍による地域の非軍事・警察活動は成り立たなくなった。
 そうした過程で、地域安定を目指す純軍事的な交流・演習も増えていく。
南進する中国
 しかし、地域安定を望まぬ異分子が、ここでもチョッカイを出している。言わずと知れた中国である。 
 振り返ってみれば、中国は《環太平洋合同演習リムパック/1998年》→《西太平洋潜水艦救難訓練/2000年》→《コブラゴールド軍事演習/2002年》にオブザーバを派遣。2007年にはタスマン海で、豪州やニュージーランドと対テロ・捜索救難に関する海上共同訓練に参加した。明らかに南進している。この種の訓練はどちらかと言えば信頼醸成にウエートが置かれるが、参加各国に比べ中国は仮想敵国や周辺国の能力・装備を探る諜報活動に完全に傾斜している。
 中国はさらに「病院船外交」を展開中だ。2014年には、人民解放軍海軍の「病院船」がトンガ/バヌアツ/フィジー/パプア・ニューギニアに寄港して現地の人々を無料診察した。気持ち悪ほどの“善行”だが、全て中国と外交を結んだ国々で、地元の要人・住民を艦内に案内し、軍事力を見せつける「中国らしさ」も忘れなかった。米軍や豪軍の電波・通信情報の収集任務も兼務していると、多くの安全保障関係者が分析している。
 もっとも、「中国らしい」ミスも犯した。仏領ポリネシアでも無料診療を行ったのだ。軍事拠点に近付いた人民解放軍海軍を、フランス軍は間違いなく警戒したはずだ。しかも、FANCとFAPFの間に位置するフィジーはロシアに続き2015年、中国とも海軍建設などで軍事協定を締結した。軍事クーデターで政権が樹立された際、南太平洋の「盟主」たる豪州の経済制裁を受けても強気だったのは、中国が背後で強力に支えたためだ。
南太平洋の島嶼国家は、中国と台湾が激烈な外交関係樹立を競う「戦場」だ。現在は中国8カ国と台湾6カ国と、中国が優位に立つ。当面の「有効兵器」は札束。政府機関ビルや港湾の建設に無償供与よりも借款の比率を高め、借金漬けにされている国も多い。
 フィジー同様、FANCとFAPFの中間に位置するトンガも、中国への借款返済額が国家収益の2割近くに達し、経済破綻の瀬戸際だ。トンガなど各国で、反中国人暴動が勃発し、豪州軍やニュージーランド軍が鎮圧に派兵している。
 「無料医療攻撃」にさらされた仏領ポリネシアにも交通や観光関係のインフラを中心に中国資本が流入する。
 資本進出だけではない。ニューカレドニア(仏領)とバヌアツは両国間に眠るレアメタルなど海底資源をめぐり「大陸棚争い」をしている。フィリピンは、南シナ海のほぼ全域の領有を主張する中国に国際裁判で完勝したが、仲裁裁判所(オランダ)の判断以前に中国を支援した太平洋地域で最初の国家がバヌアツだった。レアメタルを狙う中国の影を、バヌアツの背後に感じる。
 半面、ニューカレドニアは伝統的にフランスからの独立機運を高めてきた。2019年までに完全独立の是非を問う住民投票も控える。小欄は、中国がニューカレドニアの独立後、フランスの外交・軍事にかかわる影響力を排除し、海底と観光という大きな資源を狙っていると観測している。
敵・味方に武器を売るフランスが日本に接近中
 かくしてフランスの対中警戒感は徐々に高まっている。フランスは南シナ海でおびただしい数の「中国漁民=海上武装民兵」が水産資源を大量に密漁している実態も学習しているだろう。南シナ海での沿岸国の取り締まりが厳しくなれば、「漁船艦隊」は南太平洋を目指して、今以上に殺到する。
 既にフィジーに寄港する外国船の7割が「中国漁船」とされる。一部は米軍や豪州軍の電波・通信を傍受しているもようだ。南太平洋の島嶼国家は南シナ海の沿岸国以上に海上兵力・海上警察力が弱い。米国や豪州、ニュージーランドだけでは密漁への対抗措置は万全ではなく、フランスの南太平洋部隊の海空兵力が絶対に必要で、災害出動を含め実動局面は激増している。
 加えて、フランスは、中国と軍事協定を結んだフィジーや、対中借款地獄に陥っているトンガの海洋治安維持活動への支援や教育に乗り出した。
 フランスは、関心ゼロだった東シナ海での中国の野心、すなわち尖閣諸島(沖縄県石垣市)の強奪や水産資源乱獲に少し関心を持ち始めた。南太平洋でも起こる恐れが出てきたためだ。
 現に、2014年春の日仏外相戦略対話の中で「日本と同じ太平洋の海洋国家」との表現を用い、「法の支配」の原則を堅持して地域の安定に取り組む利益と責任を共有すると表明。自らが主催する同年夏の《南十字星演習》に自衛隊を招待し、人道支援・災害救助を演練した。翌年には、早くもフランス海軍が九州西方沖に遠征し、自衛隊や米軍と水陸両用作戦に取り組んだ。
だが、フランスの対中姿勢は慎重に見極めなければならない。対中貿易収支は大幅赤字で、2014年の習近平国家主席の訪仏では新分野での双方向の投資拡大が決定した。
 そもそも、フランスは天安門事件後の対中武器禁輸解除の旗頭に度々立った。2003〜05年には、米国の猛反対と英国の“裏切り”で頓挫したが、あと一歩に迫った。解禁の見返りには軍民汎用衛星の受注なども含まれていた。
 昨年6月に中国海軍艦が初めて尖閣諸島の接続海域に入ったが、天安門事件後の建造にもかかわらず、フランス生まれの技術が多用され、ステルス構造やレーダー、機関など殺傷兵器以外ではフランス製が少なくなかった。禁輸対象=殺傷兵器の一部が、人民解放軍にコピーされても対抗措置を採らない。人民解放軍海軍が、フランス海軍の攻撃型原子力潜水艦(SSN)を欲しがっていることも熟知する。フランス製SSNは排水量が小さく、東シナ海〜西太平洋かけての浅海での作戦行動に適しているのだ。
 中国と台湾だけでなく敵・味方に平然と武器を売る。フォークランド紛争(1982年)でも、同盟国・英国の駆逐艦など2隻を沈めた交戦国アルゼンチンに、同じ対艦ミサイルを事実上追加供与せんとし、英国にはこのミサイルの弱点を漏らしている。
 フランスとの確固たる協力関係が構築できれば「毒をもって毒を制す」ことができる。けれども、「毒」の取り扱いには覚悟を決めねばならぬ。倒錯している日本国憲法では、わが国の“覚悟”を前文でこう定めている。
 《平和を愛する『諸国』民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した》
 《諸国》にはもちろん、中国は入らない。フランスは該当するのだろうか…。
[管理人コメント]
日本ではあまり話題に成らぬフランスの太平洋における権益の記事で、なかなか力作で備忘記事として掲載する。
あの狡すっからしいフランスもさすがの中国に怒涛のフランスの権益を侵食され始めて、中国の横暴さを身に沁み始め、対中国警戒感を露わにし始めた。
そこで他の自由主義国との連携に動き始めた次第である。
遅きに失した感があるけど、対中国網の一環としては、我が国としては歓迎である。

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